常務サマ。この恋、業務違反です
正義感というより、私のせいにされたくない一心で、私はスカートの裾を直しながら立ち上がった。
高遠さんも私から顔を背けて、両手をポケットに突っ込みながら窓の方に歩いて行く。


言い訳するつもりはないのか。
何も言わずに背を向けるその姿は、達観してるみたいに堂々としていて、一瞬ほんの少しだけ私は高遠さんに好感を抱いてしまった……けれど。


「人事部長、今のは本当に私が……」

「部長、大丈夫ですかっ!?」


必死に弁解しようとした私など目もくれずに、人事部長は大股で高遠さんに歩み寄った。
あ然とする私を余所に、人事部長は呆気に取られるほど真剣な顔で、高遠さんの腕を掴むと背けている顔を覗き込むようにしている。
そして高遠さんはこっちに背を向けたままで、鬱陶しそうに人事部長の手を軽く払った。


「あ。申し訳ありません。つい慌てて……失礼いたしました」


いくら取締役部長とはいえ、自分よりも年下の高遠さんに手を振り払われたというのに、人事部長はそんな態度にホッとしたようにそう言って、ペコッと丁寧に頭を下げた。
そして、ただ立ち尽くしている私にキッと視線を向けると、今朝の慇懃さが嘘みたいに思えるほど、きつい言葉を放って来た。


「君。いくらなんでも初日から盛り過ぎなんじゃないかね?
度を過ぎた行動が続くようなら、三ヵ月と言わず明日にでも辞めてもらいますよ」

「……は?」


一瞬本気で目が点になりそうだった。


「いいですね。あなたに任せたのは秘書の役割であって、部長の障害になられては困るんですよ」


少しずり落ちたメガネを人差し指でクッと上げながら刺々しく言われた言葉は、私には全く意味がわからない。
それでもどうしようもなく屈辱を感じたのだけは理解出来た。


「障害って……! 私はっ」

「いいですね。二度目はないですよ」


聞く耳はもたない、というようにピシャリと言い捨てて、人事部長は私の目の前に人差し指をビシッと突き立てて来た。
妙な迫力に、私も思わず言葉を飲んでしまう。
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