常務サマ。この恋、業務違反です
凄みを保ったままキビキビと歩を進めてドア口に立つと、人事部長はキリッとした表情でもう一度室内に目を向ける。
そして丁寧過ぎるお辞儀をしながら、窓際に佇んだまま黙っている自身の上司に声を掛けた。


「もし何かありましたら、遠慮なく呼んで下さい。直ぐに飛んでまいりますから」

「……サンキュ」


ようやく声を放った高遠さんに気を取られて視線を向けている間に、人事部長はしっかりとドアを閉めて執務室から出て行ってしまった。


執務室には私と高遠さんだけになって、私は今の状況の意味のわからなさに無意識に首を傾げた。


なんかおかしくない?
いや、確かに私は見られた状況に対して説明しようと思ったけれど。
全面的に私が悪者にされて決着がついてしまったこの現状には、大いに異議がある。


明日クビにされるのは全然問題ないにしても、それって一方的に私を『悪者』にした結果だよね、と思ったら、どうにも腑に落ちない。


意味のわからなさに大きく首を傾げた時、それまで黙っていた高遠さんの忍ばせた笑い声がクックッと聞こえて来た。


顔を上げて高遠さんを見遣ると……。
窓から挿し込む夕陽のオレンジに輪郭を縁どられてポケットに手を突っ込んだ格好のまま、ゆっくり私に顔を向ける高遠さんの姿が私の目に飛び込んで来た。
その姿はいろんな疑問も全部飲み込んでしまえるくらい、神秘的で美しくて。


「なるほど。何者かと思ったけど、あんたは懲りずに派遣されてきた新しい秘書ってことか」


短い笑い声に肩を揺らしながら、高遠さんは軽く一歩踏み出して私に身体の正面を向け直した。
そのゆったりした動きが妙に妖艶で、私は自分でもわかるくらいゴクッと音を立てて息を飲んだ。


「仕事続けたいなら、必要以上に俺に近付くな。わかったか」

「は、はい……」


雰囲気に飲まれて、思わず素直に返事を返してしまった、けど……。
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