常務サマ。この恋、業務違反です
よく考えたら、おかしくない!?


定時を待って時間ぴったりに仕事を切り上げてオフィスを出た私は、駅に向かうまでの短い時間で加瀬君にメールを送った。
加瀬君が電話をしてきたのは、その夜、私がお風呂から上がって缶ビール片手にゆっくり寛いでいる時だった。


お疲れ~、と呑気な第一声が耳に届いて、私の中で何かがブチッと切れた。
なんでそんなに呑気なのよ!?と、いきなり文句を口にすると、加瀬君の悪びれない声が続く。


「いや、ごめん。もうやだ、辞める!!って言われたらどうしようかと思ってたんだけどさ。
さっすが葛城! 俺の同期だけある」

「それ、喜んでいいのかな」


思わず溜め息をつきながらそう呟くと、耳元の携帯からはクスクス笑う声が聞こえて来る。


「喜べって。無事帰還したあかつきには、三ツ星レストランで豪勢に御馳走してやるから」


それだけじゃ割に合わない。
そう言いたい気持ちをグッと抑えて、私は短く、ん、と頷いた。


「でも、意外だったなあ。俺も上司って相当なおじいちゃんだと思ってたからさ」


加瀬君への短いメールでは、高遠さんがまだ三十二歳で極上のエリートだってことだけを伝えていた。
これまでのセクハラ疑惑の噂については、まだ確認出来ていないことだし、加瀬君には報告していない。
まあ、言ったところで『お前なら全然問題ないな』って笑い飛ばされるだけだし。
それに私自身も……つい数時間前の出来事を思い起こすと、やっぱり疑問しか浮かばなかったから。
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