常務サマ。この恋、業務違反です
ちょうど一次会と二次会の境目の時間のせいか、週末にもかかわらず、そう待つこともなく、オフィス近くのこじゃれた居酒屋に入ることが出来た。
通された個室席で、私は加瀬君と向かい合って座る。
生のジョッキを片手に乾杯した後、どんどん酔って行く加瀬君の聞き役に回った。
そうして、ほんの数刻……彼の声は私の耳を右から左にスルーしていく。
「今回はさ、俺もちょっと自信あったんだよっ! 長期……とはいかなくても、せめて半年くらいはもってくれれば、ってさ」
ビール二杯と日本酒一合でクダを巻いて、加瀬君は額をテーブルに擦り付けた。
「年四回の悲劇が二回になるだけでも、大きな一歩だしねえ」
「だろっ!? それに、彼女だって見学の時はやる気満々だったんだ。
『こんな立派なオフィスで希望の仕事が出来るなんて』って」
「うんうん」
「なのに、なんでまたっ!? 双方から契約更新せず、の通知が来るなんて思ってもいなかった。
せめて片方だけだったら、俺の苦労も少しは報われるのに……」
「……そうだよねえ」
加瀬君の呂律が少し怪しくなって来て、そろそろ引き時か?とも思う。
面倒臭いな、とつい手首の腕時計で時間を確認したけど、同業者として聞き流せない苦労話であることは確かだ。
私、葛城希望(かつらぎのぞみ)、二十七歳。
今勤務している大手人材派遣会社の営業担当になって、もう丸五年になる。
仕事はいろいろあるけれど、大きく分ければ派遣先、つまりクライアントの新規開拓と、既存のクライアントと派遣社員のフォローが大部分。
うちから派遣したスタッフが安定して長期就業している場合は、こっちも胃が痛くなる思いはしない。
定期的に巡り来る契約更新も、単なる書類仕事でしかない。
実際、私の担当先はそういうクライアントばっかりで、逆に派遣社員の方から『時給を上げてくれ』なんて愚痴が入って交渉したりしなきゃいけないんだけど……。
通された個室席で、私は加瀬君と向かい合って座る。
生のジョッキを片手に乾杯した後、どんどん酔って行く加瀬君の聞き役に回った。
そうして、ほんの数刻……彼の声は私の耳を右から左にスルーしていく。
「今回はさ、俺もちょっと自信あったんだよっ! 長期……とはいかなくても、せめて半年くらいはもってくれれば、ってさ」
ビール二杯と日本酒一合でクダを巻いて、加瀬君は額をテーブルに擦り付けた。
「年四回の悲劇が二回になるだけでも、大きな一歩だしねえ」
「だろっ!? それに、彼女だって見学の時はやる気満々だったんだ。
『こんな立派なオフィスで希望の仕事が出来るなんて』って」
「うんうん」
「なのに、なんでまたっ!? 双方から契約更新せず、の通知が来るなんて思ってもいなかった。
せめて片方だけだったら、俺の苦労も少しは報われるのに……」
「……そうだよねえ」
加瀬君の呂律が少し怪しくなって来て、そろそろ引き時か?とも思う。
面倒臭いな、とつい手首の腕時計で時間を確認したけど、同業者として聞き流せない苦労話であることは確かだ。
私、葛城希望(かつらぎのぞみ)、二十七歳。
今勤務している大手人材派遣会社の営業担当になって、もう丸五年になる。
仕事はいろいろあるけれど、大きく分ければ派遣先、つまりクライアントの新規開拓と、既存のクライアントと派遣社員のフォローが大部分。
うちから派遣したスタッフが安定して長期就業している場合は、こっちも胃が痛くなる思いはしない。
定期的に巡り来る契約更新も、単なる書類仕事でしかない。
実際、私の担当先はそういうクライアントばっかりで、逆に派遣社員の方から『時給を上げてくれ』なんて愚痴が入って交渉したりしなきゃいけないんだけど……。