常務サマ。この恋、業務違反です
ファイリングだけが秘書の仕事じゃない。
そして、執務室の掃除っていうのは、『業務に付随する業務』の位置付でしかない。


このウェイカーズの『エグゼクティブ秘書』の業務内容を、うちの会社ではこう紹介していた。


『外資系証券会社の役付者の秘書業務全般をお願いします。
スケジュールの管理と調整、電話応対、外出時の同行、記録業務。
その他、役付者が気持ち良く仕事の出来る環境づくりをお願いします』


それを真に受けて、このミッションを軽く見ていた自分を、思いっ切り怒鳴りつけたい気分だった。


「……あまりに系統違うし、正直相当不安ではあったんだけど」


大きな窓を背にした豪華なチェアーにどっしりと腰を下ろした高遠さんが、長い足を組んで、読み終えた書類をやっと片付いたデスクの上にバサッと無造作に放り投げる。
どう見ても呆れ果てた様子の高遠さんと大きく広い立派な胡桃素材のデスクを挟んで、硬直したまま俯いていた私の目線に、投げ出された書類が滑り込んで来る。


派遣候補者として『職場見学』という名の面接に訪れた時。
『派遣元担当者』の加瀬君が、向かい合った人事部長に提出した書類。
つまり私の『身上書』だ。


書かれているのは、これまでの職務経験と取得資格のみ。
学歴や年齢、性別を理由に不採用と出来ないようにする為だけど、正直なところザッと見れば大体の年齢もわかるし、その場で質問されれば前勤務先名だって簡単にバレる。


そして、今問題になっているのは、もちろんそんなことじゃない。
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