常務サマ。この恋、業務違反です
身上書の確認をされた時、面白がってあれもこれも……と書いてもらわなくて本当に良かった、と思う。


秘書経験なんかないけど、ウェイカーズも最近はそれでもいいと言っていた。
それに、それほど長くて立派な職務経験とは言えなくても、これまでの五年間の経験で乗り切れると思ってたから。


スケジュール管理なら仕事だけじゃなくプライベートでも普通にやってること。
英語能力がなくても、電話の取次程度ならその場のノリでなんとかなる。
気持ち良く働ける環境づくりなんて、たとえ三ヵ月でも私の職場なんだから当たり前に出来る。


そんな軽い気持ちで……つまり私は秘書って仕事を相当甘く見ていたってことを、今この場で思い知らされている。


結果、潜入して一週間経たないうちから、私の独りよがりな自信はどんどん地に落ちて行った。


高遠さんが、昼も夜もなく仕事しているというのは、大袈裟でもなく本当のことだった。
そんなんじゃ健康に悪いじゃない!と、非常識な時間の仕事は問答無用でシャットアウトした。
そうしたら、欧州、米国とのリアルでのやり取りが出来なくなって、高遠さんに相談したら「構わないから入れて」と言われた。


今度は時差も気にせず二十四時間の枠に収めていたら、高遠さんの寝る間がなくなった。
それに気付いて慌ててスケジュールを組み直したら、今度はいくつものダブルブッキングが出た。
それに焦って日程変更しようにも、電話やメールで英語力が必要になって、連絡すらまともに出来ない。
テンプレだけで乗り切れる話じゃなくて、どうしようどうしよう……って考え込んでいたら、最初の二日間で綺麗に片付けたはずの書類がまた山になっていく。


そうして、高遠さんが気持ち良く働ける環境づくりどころか、眉間の皺を深くするだけ。
高遠さんの溜め息は増えるし、私との関係も更にギスギスしていく。


そして私も……とうとう二日前から、胃薬常用中、だった。
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