常務サマ。この恋、業務違反です
「……すみません」


今までこんなにしょげたことなんかない、ってくらい、私は落ち込んでいた。


ああ、私って本当に使えない。
たった五年間の職務経験だけで、相当思い上がっていたんだなあ、ってことを自覚せずにいられなかった。


自分の職場にいるだけなら、もう勝手もわかってるし後輩もいるし、そこそこ自分の判断で仕事を進めることも出来る。
それで私も立派なOL気分でいたけれど、井の中の蛙でしかなかったことを痛感する。
実際には……一歩外に出たら、私なんてこんなもんだ。


それでもなんとか無難にこなそうとしていたけど、ついさっきかかって来た海外からの電話で、あまりに早口な英語とは違う言語に慌てて頭が真っ白になった。
強張った顔で声を出せなくなった私に、さすがに高遠さんが見かねた。


どうした?と立ち上がって訊ねて来た高遠さんを見上げながら、ホッとして泣きそうになった。
こんなことで頼るのは恥ずかしい、と思いながらも、自分ではどうにも対処出来ずに、電話を保留しながら俯いた。


フランス語なんです、と半泣きになった私に、高遠さんは呆れて蔑んだ瞳を向けた。
そして電話を奪って『Bonjour?』と応対した後、高遠さんは不機嫌そうに眉をしかめて、私をチラッと見遣った。そして、『Guten Tag』と言い直した。
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