常務サマ。この恋、業務違反です
同期の加瀬君……加瀬公明(かせきみあき)の先も、それほど問題な先が多い訳じゃない。
ただ一社、三年ほど前から取引の始まったクライアントが、とびぬけて曰くつきなのだ。
丸の内の超高級オフィスビルの三十階にテナント入居している外資系証券会社『ウェイカーズ証券』
それが加瀬君を年に四回泣かせるクライアントだ。
募集職種は『エグゼクティブ秘書』
この手の優良企業の秘書業務と考えても時給千九百円は破格だし、平均残業時間も月に十五時間程と一般的。
待遇的には申し分ない好条件だというのに、派遣社員が長続きしない。
初回から三ヵ月契約で始まるこの会社で、誰一人として初回の更新を出来ずに入れ替わって行く。
一度や二度ならばどこのクライアントでもあり得ることだけど、こうも毎回……となるとちょっと事態は深刻だ。
「実はすごいブラックなんじゃないの。
パワハラ・セクハラが横行してるとか、残業時間が半端ないとか。
ほら、外資系金融って、プライベートもないくらい激務だって聞くし」
テーブルに肘をついて、組み合わせた指に顎を乗せながら呟くと、突っ伏していた加瀬君がムクッと顔を上げた。
「そんなのとっくに調べてるよ。
提出されたタイムシート上、むしろ残業時間は少ない方だし、スタッフに聴取してもそういう実態は判明しなかった。
忙しいのは当のエグゼクティブだけで、彼女達は当たり前に定時退社出来る環境だった」
「そんなの、本当かわからないじゃない」
「いくら派遣とはいえ、当たり前にコンプラ研修受ける時代だよ。
非正規社員でも訴える権利はあるんだから、一言俺に言ってくれればいいだけじゃないか」
まあ、そうかもしれない。
もちろん、言い辛いという意識が働くことも考えられるけど、これまで八人が同じように辞めているからと言ってクライアントばかりを責められない。
きっとスタッフにも何かしらの問題があったんだろう。
ただ一社、三年ほど前から取引の始まったクライアントが、とびぬけて曰くつきなのだ。
丸の内の超高級オフィスビルの三十階にテナント入居している外資系証券会社『ウェイカーズ証券』
それが加瀬君を年に四回泣かせるクライアントだ。
募集職種は『エグゼクティブ秘書』
この手の優良企業の秘書業務と考えても時給千九百円は破格だし、平均残業時間も月に十五時間程と一般的。
待遇的には申し分ない好条件だというのに、派遣社員が長続きしない。
初回から三ヵ月契約で始まるこの会社で、誰一人として初回の更新を出来ずに入れ替わって行く。
一度や二度ならばどこのクライアントでもあり得ることだけど、こうも毎回……となるとちょっと事態は深刻だ。
「実はすごいブラックなんじゃないの。
パワハラ・セクハラが横行してるとか、残業時間が半端ないとか。
ほら、外資系金融って、プライベートもないくらい激務だって聞くし」
テーブルに肘をついて、組み合わせた指に顎を乗せながら呟くと、突っ伏していた加瀬君がムクッと顔を上げた。
「そんなのとっくに調べてるよ。
提出されたタイムシート上、むしろ残業時間は少ない方だし、スタッフに聴取してもそういう実態は判明しなかった。
忙しいのは当のエグゼクティブだけで、彼女達は当たり前に定時退社出来る環境だった」
「そんなの、本当かわからないじゃない」
「いくら派遣とはいえ、当たり前にコンプラ研修受ける時代だよ。
非正規社員でも訴える権利はあるんだから、一言俺に言ってくれればいいだけじゃないか」
まあ、そうかもしれない。
もちろん、言い辛いという意識が働くことも考えられるけど、これまで八人が同じように辞めているからと言ってクライアントばかりを責められない。
きっとスタッフにも何かしらの問題があったんだろう。