常務サマ。この恋、業務違反です
「……あの、日本語、話せるんですか？」


聞いたこと事態愚問だったと自分でもわかる。
だって、私に向けられたエリーさんの日本語はとても流暢で、その場だけの付け焼刃には聞こえなかったから。


「ごめんなさいね。普段接待の場で航平と会う時に同行する秘書の方は、皆さん英語を理解しているようだったし……。
それに、今回は航平から英語で話してくれって言われちゃったものだから」


申し訳なさそうにそう言うエリーさんの言葉に、私はあ然とした。


これまでの疎外感は、全部高遠さんの策略だったの！？
それってちょっと酷過ぎる。
加瀬君との約束を断ってここに来たのに、会話はまったくわからないし、私は自分の存在する意味すらわからなかったというのに。


「……いいんです。私、本当に無能な秘書で、英語もドイツ語もフランス語もわからないし、高遠さんの足手まといになるだけで……」


いろんな意味で自分が情けない。
思わず泣き言を呟く私に、エリーさんもジムさんも目を丸くしてから、フフッと笑った。


「足手まとい……ではないと思うわ。今まで航平と話してたのは、仕事のことじゃなくて……。むしろ、完全にプライベートな話だったから、航平はあなたに聞かれたくなかっただけだと思うの」

「え？」

「だって……私達が話してたのは、航平の結婚……恋愛の話だったから」


そう言って悪戯っぽく微笑んだエリーさんが、なんだかとっても幼い少女のように見えた……。
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