常務サマ。この恋、業務違反です
二時間程の接待が終わって、ジムさんとエリーさんの乗ったタクシーが料亭の前から走り出すのを見送った後、私も高遠さんと一緒にタクシーに乗った。
後部座席に二人で並んで息をつくと、高遠さんは運転手さんに短く行き先を告げた。


「代々木まで」


かしこまりました、と呟いて、運転手さんは静かに車を発進させた。
シートに軽く背中が吸い込まれる感覚を味わった後、私は肩を竦めて高遠さんの横顔をちら見した。


私の家の場所を聞いた後、通り道だからという理由で一緒にタクシーに乗せられてしまった。
まだ電車は十分ある時間だし、私はいいって断ったのに。
それでも私は、隣で涼しい表情を浮かべている高遠さんからなんとなく目が離せずにいた。


「航平は、ああ見えて不器用な男なのよ」


高遠さんが席を外していた短い時間で、ジムさんとエリーさんが私に日本語で語ってくれた話。
高遠さんの『素』を感じられる内容で、それをどこまで本気で受け取っていいのか、判断に迷った。


「航平はイイ男でしょう? 私達にも年頃の娘がいて、娘も航平を気に入ってるから、ぜひうちの婿に……って思ってるんだけど」


そう言って一度言葉を切ってから、エリーさんはちょっと残念そうに微笑んだ。


「でも航平は、結婚するなら日本人がいいって昔から言ってるし」

「それに、今のところ仕事で精一杯でそれどころじゃないって言ってるしな」


二人の話を聞いて、高遠さんが結婚に考えを抱いていることに驚いた。
そりゃ、男性でも三十二歳っていったら、考えて当然の年齢かとは思う、けど。


「……高遠さんは、特定の彼女を作ろうとしないって、社内では噂になってます。だから、結婚なんか全然考えてないんだと思ってました」


そう言った私に、エリーさんが小首を傾げて、そうね、と呟いた。
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