常務サマ。この恋、業務違反です
加瀬君に言われた通り、私は秘書の仕事を覚える為にウェイカーズに潜入した訳じゃない。
それにしたってこの状況のまま後三ヵ月弱仕事をしなきゃいけないって思うと……。
とりあえず付け焼刃でもいいから、少しくらいは英会話の勉強も必要かな、って思った。


明日は休みだし……。
本屋に行って英会話のテレビ講座のテキストでも買って来よう。
そう考えて溜め息をつきながら目線を上げると、交通表示に『代々木』って地名が書かれているのが目に映った。


ほとんどまともな会話もしないまま、結構早く着いちゃうな、と思った時、あれ?と妙な疑問が浮かび上がって来た。


「あの……。私、もう直ぐ着くんですけど」

「ん……? ああ、もう代々木近く?」


腕組みして目を閉じていた高遠さんが、私の遠慮がちな声に目を開けて軽く窓の外を見遣った。


「通り道、って。……高遠さん、どこに住んでるんですか?」

「現住所って意味なら、用賀」

「えっ!?」


私よりも遠いっ! 一瞬にして地理感覚を起動させて、私は目を丸くした。
それなのに、昼も夜もなく仕事をしてるなんて、ほとんど自分の家で過ごす時間もないに等しいはず。


「でも、平日はほとんど社内にいるかホテル住まいだから」


私の思考を読み取ったように、高遠さんはシレッとそう呟いた。
その一言に、私は更に目を丸くする。
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