常務サマ。この恋、業務違反です
必死に気持ちを抑えてそう言うと、さすがに加瀬君も唇をへの字に曲げて、わかってるよ、と不貞腐れた。


「俺だって何度も面会を申し入れてる。でも、どうしてもダメなんだ。
まあ、俺の交渉相手は人事部長だし、スタッフにも同席していないエグゼクティブ付きだってことは説明されている。
だから、始まりとしては問題ない訳で……」

「そのエグゼクティブが一般的レベルで超難有りの人間だとしたら、下手したら騙されたって思うスタッフもいる。
そりゃ、続かないのも当たり前だって話なんじゃないの!?」


同情して損した。こんなの加瀬君の業務怠慢と言っても過言じゃない。
私は呆れ果てたのを見せ付けるように、思いっ切り大きく溜め息をついて、かぶりを振りながらカクテルグラスを口に運んだ。


そんな私をジッと見つめて、加瀬君までハアッと溜め息をつく。
そして酔いが醒めたような表情で眉間に皺を寄せた。


「俺だって週に二度も三度も面会のアポイントとる為に電話したし、直接出向きもした。それでも会ってくれないんだから、仕方ないだろ。
相手は一流企業の重鎮なんだから、そりゃ忙しいだろうし。
スタッフからも聞き出したけど、みんな『いい人ですよ』って言うだけで、それ以上は何も話してくれない」

「何、それ」

「つまりね。俺は、会社ぐるみで隠匿してるんじゃないか、って思ってるの。
もちろん、スタッフも巻き込んで。人柄は元より、その存在も」

「エグゼクティブでしょ!? 一体何の意味があって……」


真剣な顔でそんなことを言う加瀬君がわからなくなって、私はイライラしながらグラスを煽った。
さっきから立て続けに飲んだせいか、いつの間にかグラスは空になっていた。
そんなことに更にイライラして、簾の向こうを店員が通ったのを見つけて、顔を出してお代わりを頼んだ。
< 6 / 204 >

この作品をシェア

pagetop