常務サマ。この恋、業務違反です
秘書は必要ない、ってあれだけ堂々と言い切った人に対して、私は幼稚園の先生にでもなった気分でいた。


『はい、お昼の時間です。みんなで手を合わせて、『頂きます!』
食べたら歯を磨きましょう、家に帰ったら手洗いうがいをしましょう。
そろそろお夕飯の時間ですよ。食べ終わったら、お風呂に入りましょう。
あら、もうこんな時間。そろそろベッドに入る時間ですよ』


そう。まさにそうやって徹底的に時間管理をしないと、この人はまともな生活をしようとしないだろう、と勘付いてしまった。


仕事をしている高遠さんは誰がなんと言っても完璧で、その姿だけ見ていたら、こんな高遠さんは想像も出来ない。


良く考えたら、私も国際部の二人から聞いた噂話で、相当先入観を持っていた。
もちろん、私が知り得た高遠さんの情報や仕事振りを見ている限り、そんな勝手な印象を抱いてしまうのも当然だと思う。


だけど……。


この一週間私が傍で見て来た高遠さんは、あの二人が思い描いて騒ぐような『女慣れした野獣』とはちょっと違う。
彼の一番近くで毎日仕事をする私が、今、高遠さんに抱く印象は……。


なんて言うか。
噂や第一印象とは全く違う、いっそ微笑ましいくらいギャップに満ちた正反対の姿だった。


もちろん、私だってちょっとは呆れてる。
それでも、こんな素顔があるからこそ、完璧過ぎない高遠さんに人間味を感じて、親近感も湧くってもの。


そして。
こんな高遠さんを知ってしまったから、私は社内でまことしやかに囁かれる高遠さんのセクハラの噂を、どうしても真実だと思えなくなっていた。
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