常務サマ。この恋、業務違反です
そう考えてみれば、確かに手間暇かけて都心に引っ越すまでもない。
高遠さんには『住処』なんて必要ないんじゃないかとすら思えてしまう。


と、それはまあいいとしても。
あの人はそうやって、きっと夕食を食べることも忘れるんだろう。当然、朝も。
そして多分、昼も食べることを忘れる訳で……。


そんな思考に引き込まれて、私は自分の手元を見つめた。


美味しそうないい匂いを漂わせている青椒牛肉絲。
ちょっと多目に作っちゃったから、私のお弁当プラス一人分のメインには十分足りると思う。
余りそうだし……高遠さんの分も、作って行こうかな。


ジュワジュワと音を立てるフライパンの中味を見つめながらそう考えた自分に、一瞬、待て、と制御した。


いやいやいや……!


お母さんでも妻でも彼女でもないのに、それはちょっとやり過ぎでしょう!


そう、いくらなんでも手作りのお弁当を差し入れるなんて、出しゃばり過ぎだ。
高遠さんが今日私の差し入れを快く受け取ってくれたのだって、お金で対価を支払えるものだったから。


自分の考えにそう納得して、私はコンロの火を止めた。
これから自分の夕食にする分を皿に取り分けて、フライパンに残った量をただじっと見つめた。


多く作り過ぎちゃったから。
捨てるのも勿体無いし。


そう言いながら渡せば……。


高遠さんは拒まないんじゃないかな、と思った。
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