常務サマ。この恋、業務違反です
お昼の時間帯の共有ラウンジは、いつも混み合っていて賑やかだ。
お昼の真っ最中の時間になってしまったけど、この時間のラウンジは相席が暗黙の了解になっていて、一人ならそれほど苦労せずに窓際のソファ席で一時間過ごせる。


四人掛けのソファに、知らない人と三人で腰掛けて、私はモソモソとお弁当を食べた。
自分の味に慣れているから、別に味気ない訳じゃない。


そうじゃなくて……結果的に高遠さんにお弁当を押し付けて逃げて来てしまった自分に自己嫌悪に陥って、お弁当を味わってる余裕もない。


お弁当箱がなかったから、高遠さんに渡したのはご飯とおかずを詰めた色気のないタッパーだ。
いっそ、そのまま捨ててしまってくれていい。いや、是が非でもそうして欲しい。


その前の会話で、昨日の私の行動に高遠さんが『GIVE & TAKE』を考えたのはわかった。
それなら私はGIVEにGIVEを重ねてしまった訳で、親切の押し売りにしかならないことをしてしまった。


しでかしてしまったことを無かったことにしたい……と後悔しても遅い。
それなら、私が高遠さんに取るべき態度は『平静』そのもので、本当になんの意図もないんだって伝えなければならない。


こういうことを考えている時の一時間っていうのは怖いくらいあっという間で、私はいつもの十倍の速さで時を刻んだような腕時計を眺めて、溜め息をつくと立ち上がった。


ちっとも休憩した気分にならなかった、と思いながら、重い足を引き摺るように三十階のオフィスに戻る。
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