常務サマ。この恋、業務違反です
高遠さんの執務室の前で一度立ち止まった。
そして、大きく深呼吸して、無駄に騒ぐ心臓を宥めようとした。
平静、平静。
何もなかったように、素知らぬ顔で平然と仕事してれば、終業時間は直ぐに訪れてくれる。
二度軽くノックしてからドアを開けた。
戻りました、と呟く声が、どこか掠れているのを自分でも感じた。
だけど、一歩踏み出して、なんだかちょっと気が抜けた。
いつもと変わらず、仕事をしている高遠さんの姿が直ぐに目に飛び込んで来るかと思ったのに、そこに高遠さんの姿はない。執務室は無人だった。
一瞬、なんだ、と気が抜けながら、自分のデスクに戻ると再び緊張で鼓動が速まるのを感じた。
結局、高遠さんと顔を合わせる時が先送りになっただけで、この緊張が無駄に長引いただけのこと。
はあ、と大きく肩で息をしながら、パソコンを起動させた。
この後の高遠さんの予定を確認しようとマウスを動かした時、不意にガチャッと音がして、執務室のドアが開いた。
反射的に顔を上げたせいで、一瞬気持ちが無防備になった。
ドア口に立った高遠さんの姿に、お帰りなさい、と笑顔を向けようとして……。
「っ……」
高遠さんの手に、私が押し付けた紙袋があるのを見つけて、一気に笑みが強張った。
そして、慌てて顔を背ける。
「あ、お帰り」
高遠さんは短くそう言って静かにドアを閉めた。
そして、硬直したまま俯く私に、静かな足音を立てて近付いて来る。
そして、大きく深呼吸して、無駄に騒ぐ心臓を宥めようとした。
平静、平静。
何もなかったように、素知らぬ顔で平然と仕事してれば、終業時間は直ぐに訪れてくれる。
二度軽くノックしてからドアを開けた。
戻りました、と呟く声が、どこか掠れているのを自分でも感じた。
だけど、一歩踏み出して、なんだかちょっと気が抜けた。
いつもと変わらず、仕事をしている高遠さんの姿が直ぐに目に飛び込んで来るかと思ったのに、そこに高遠さんの姿はない。執務室は無人だった。
一瞬、なんだ、と気が抜けながら、自分のデスクに戻ると再び緊張で鼓動が速まるのを感じた。
結局、高遠さんと顔を合わせる時が先送りになっただけで、この緊張が無駄に長引いただけのこと。
はあ、と大きく肩で息をしながら、パソコンを起動させた。
この後の高遠さんの予定を確認しようとマウスを動かした時、不意にガチャッと音がして、執務室のドアが開いた。
反射的に顔を上げたせいで、一瞬気持ちが無防備になった。
ドア口に立った高遠さんの姿に、お帰りなさい、と笑顔を向けようとして……。
「っ……」
高遠さんの手に、私が押し付けた紙袋があるのを見つけて、一気に笑みが強張った。
そして、慌てて顔を背ける。
「あ、お帰り」
高遠さんは短くそう言って静かにドアを閉めた。
そして、硬直したまま俯く私に、静かな足音を立てて近付いて来る。