常務サマ。この恋、業務違反です
距離が狭まるのを感じて、一気に鼓動が騒ぎ始める。


うわ、どうしよう! なんて言ってこの場を取り繕えばいいんだろう!?


「あっ、あのっ……」

「これ、サンキュ」


無理矢理話題を向けようとした私の直ぐ横で立ち止まって、高遠さんはいつもと変わらない口調でそう言った。
その声に思わず顔を上げると、高遠さんはわずかに首を傾げて、手にした紙袋を私のデスクに置いた。


私は目の前に置かれた紙袋を手に取った。
渡した時より明らかに軽い。
中からタッパーの一つを出すと、すっかり空っぽになった上に、ちゃんと綺麗に洗ってあった。


「た、高遠さん……」


驚きで目を丸くして顔を上げると、高遠さんは私に背を向けて自分のデスクに戻って行った。


向けられたのは一言の感想もなく感謝を表す言葉だけ。
想像通り捨てられたのか、それとも食べてくれたのかもわからない。


やっぱり押しつけがましかったかな、と、改めて自分の行動を後悔した。


社会人にもなって手作りのお弁当、なんて。
何をどう考えてもすごく意味深な気がして、変な下心があると警戒されてもしかたない。


「あのっ! なんか、すみませんでした!」


背を向けたままの高遠さんに、私は深々と頭を下げた。
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