常務サマ。この恋、業務違反です
え?と短い言葉が返って来ても、私はそのままの姿勢で猛然と言い放った。


「昨日の差し入れ、喜んでくれたから! ちょっと作り過ぎたし、せっかくだしって思っただけで!
本当にそれだけなんで、むしろその……残飯整理に付き合わせちゃって、すみませんでした!」


言うだけ言って、自分としては気が済んだ。
さあ、もうこのことは忘れて仕事を始めよう。
そう決めて大きく息を吸って、私は椅子を引いて座ろうとした。


「そっか。……でも、サンキュ」


それでも高遠さんの言葉は変わらずに、私は座り掛けの微妙な体勢で身体を硬直させた。


「昨日と今日のお礼は日を改めてするから、何がいいか考えておいて」

「いえ、だからお礼なんて……!」

「俺がしたいんだよ。嬉しかったから」

「え……?」


あくまでも冷静に紡がれる言葉に、さすがに返す言葉を失った。
そしてぼんやりと目を向けると、高遠さんは窓際に立って、そこから見える都心のトラフィックジャムを眺めている。


「ランチボックスとは違うお弁当って、初めてだったんだ」

「は……?」

「大袈裟じゃなくてね。俺は小中高って海外だったし。
なんて言うの? 純粋に日本式の手作り弁当って、食べた記憶が無いって言うか」


記憶を思い起こすかのようにゆっくりそう呟いてから、高遠さんは目線を足元に移してフッと笑った。


「あんた、結構料理上手いんだな。意外過ぎて、ちょっと感動した」


そんな言葉も表情も想定外だったから、ドクンと鼓動が打ち鳴ってしまうのを抑えられなかった。
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