常務サマ。この恋、業務違反です
不自然なまま言葉を止めた私を、高遠さんは少し先で立ち止まって首を傾げて振り返っていた。
その背中に向かって歩を速めた時、高遠さんの胸ポケットから携帯の着信音が聞こえた。
機械的な一定のリズムの電子音に気付いて、高遠さんは軽く眉間に皺を寄せてから携帯を取り出した。
そして、相手を確認して更に皺を刻み込むと、もしもし、と短く応答する。


「お疲れ様です。え? 今? 午前中の打合せ終わって、ランチ行こうかと思ってたとこだけど」


相手が社内の人間なのか、高遠さんの言葉は割と砕けたものだった。
相手の言葉を聞いた後、え?と呟いて、そのまま視線を私に流して来る。


「いや、俺も気付かなかった。キャンセル出来ない?」


その言葉で、どうやら急な予定があったらしいと直感した。
一瞬身体から血の気が引きそうになる。
絶対、絶対、私が連絡を見逃してたせいだっ!


「……わかった。一度戻るよ」


相手に相当押し切られたのか、高遠さんは深い溜め息と共に電話を切った。
それを待ち構えていた私は、すみません!とその場で深く頭を下げた。


「え? 何?」

「私がアポイントメール、見逃してたせいですよね!? すみません!!」

「ああ、でも仕方ない。連絡入れたの今朝だって言ってたし、CCには俺も入ってたらしいし。
見逃したのは俺も一緒だから」

「でも……」

「そもそも、俺は多分ついでだ。アメリカ本社の人事部長が、週末からこっちの人事監査に来てるんだ。
帰国する前に俺に面会したいって言って来たのが、今朝だって言うし」


そう言いながら軽く舌打ちして、高遠さんはゆっくり歩き出して行く。
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