常務サマ。この恋、業務違反です
私のそんな反応を見て、人事部長は眉間に深い皺を刻んでフウッと溜め息をついた。


「身の程をわきまえていただきたいですな。
あなたと部長では、住む世界も目に映る物も、全て雲泥の差があるってことを、自覚して下さい。
……それでなくても、年内にはアメリカ本社に栄転が決まっているというのに。野良猫にがっつかれても困るんですよ」


遠慮のない言葉が、心にグサッと突き刺さった。
まるで私を有害なウィルスだとでもいうような人事部長の言葉に、さすがにムッとするのを隠せない。


「あの……。そこまで言われるならお伺いしたいです。
今までの秘書の方は、一体何が理由で仕事を続けられなかったんですか」


話の流れとはいえ、この質問に答えが返って来たら、私の任務はここで終了出来るってくらい際どい率直な質問だった。


さすがに人事部長も、感情に任せて口を滑らせ過ぎたことに気付いたのか、それまでの勢いが嘘のようにピタッと黙り込んだ。


「……教えて下さい。それなら私は今までの方と同じことをしなければいいんですよね？　高遠さんが日本にいる間だけでも、私はこの仕事続けたいです」


今度は私が勢いづいて人事部長に一歩詰め寄って質問を畳み掛けた。


「いえ、それは……。お互いのプライバシーにも関わります。私の口からは申し上げられません」


ここまで人を卑下しておいて、なんでそこで怯むのよ！？
しかも、人事部長の言い方がますます気になって、私は任務そっちのけで聞き出したくなる。
< 89 / 204 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop