常務サマ。この恋、業務違反です
「深入りするなって、ことだよ」


人事部長への攻撃の手を制御したのは、背後からかけられた静かな一言だった。


私は慌てて、人事部長はホッとしたように、二人で同じ方向に視線を向ける。
そこには微妙に不機嫌な表情を浮かべた高遠さんが立っていて、私と視線を交わすとキュッと唇を噤んで足を踏み出して来た。


「それはちゃんと葛城さんにも言っておいたはず。……って言うか、佐藤さん、何をペラペラ喋ってるんだよ」

「も、申し訳ありません」


鶴の一声に、人事部長はガバッと深々と頭を下げた。


「いい。あ、話は終わったから、スティーブのこと、後は任せる。俺はこの後また外出だから。……葛城さん」


素っ気なく人事部長に用を告げてから、高遠さんは溜め息混じりに私の方に視線を向けた。
その瞳の鋭さに、ここ数日で少し近づいた距離が一瞬にして遠くなった気がして、私は怯んで咄嗟に返事を返せない。


「車、手配して。あんたのランチの時間までなくなって、申し訳ないけど」

「い、いえ、全然そんな……！　あ、直ぐに社用車手配します」


そう一言必死に返事をして、私はクルッと二人に背を向けて、小走りで執務室に向かった。


背後で、高遠さんが不機嫌そうに人事部長に何か言ってるのを気にしながら。


私は……。
ここで答えを掴み取ることが出来なくて良かった、と思ってる自分に気付いていた。
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