常務サマ。この恋、業務違反です
「……少しは自分の身体を気遣って下さいよ……」


無意識にそう呟きながら、高遠さんの身体にそっとストールを掛けようとした瞬間。
素早く伸びた腕の一振りで、思いっ切り手を払われた。


「きゃっ!」


突然の乱暴な行動に驚いて、身体のバランスを崩した私はよろけながら床にペタンと座り込んだ。
そんな私の頭上で、飛び起きるように身体を起こした高遠さんが、一瞬険しい顔で執務室を見渡す。
そして床に座り込んでいる私を見つけて、心底驚いたように目を丸くした。


「なっ……! 葛城さん……?」


私がこんな時間にここにいることに大いに戸惑いながら、それでも私に手を伸ばしてくれる。


「ごめん。マジで驚いて……。あ、どっか怪我してない?」

「だ、大丈夫です。私の方こそ、ごめんなさい。まさか高遠さんがこんなに驚くなんて思ってなくて」


高遠さんの腕に引かれてなんとか身体を起こしてから、私は床に正座した姿勢のままで高遠さんを見上げた。


「いや、俺の方もちょっと過敏になってたっていうか。って、今何時だ……? なんであんたがここに……」


戸惑いを隠せない言葉を呟きながら、高遠さんは腕時計に目を遣った。


「す、すみません。……今日お昼とれなかったし、きっと高遠さんは夕食も忘れてるだろうと思って……」


俯いて答える私の言葉で、高遠さんはテーブルの上の紙袋に気付いた。
そして一瞬目を丸くした後、直ぐにハッとしたように立ち上がった。


「って、マズい……! 葛城さん、急げ!!」

「え?」


座ったまま腕を強く引っ張り上げられて、私はただ目を丸くした。
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