常務サマ。この恋、業務違反です
「え? あの……」

「このビル、午前零時を過ぎると完全セキュリティロックかかるんだ。
外から入ることはもちろん、中から出ることも出来ない。朝まで完全に閉じ込められるんだよっ」

「……え? ええっ!?」


そう言われて慌てて立ち上がった。
時間を確認しようにも、私は時計をつけていなくて、掴まった高遠さんの左手の時計を覗き込んだ。


「う、嘘っ……!」


もう時計はほぼ深夜零時を指し示している。
それでもエレベーターが動いていれば、ビルから出られる、と、高遠さんは私の腕を引いて全力で廊下を駆け抜けた。


下向きの三角印のボタンを押そうとした時、いきなりフッと電気が落ちて、辺りが一気に暗闇に包まれる。
私の腕を掴んだまま、高遠さんがすぐ隣で大きな溜め息をついた。


「……遅かったか」

「え……」

「そりゃ、知らなかったよな。仕方ない。……閉じ込められるって言っても、俺の執務室にいる分には問題ないから……」


そう言いながら、高遠さんは私の腕を引いて真っ暗な廊下に引き返して行く。
その後を惰性で着いて行きながら、私はただ、どうしようってそればかりを考えていた。


「す、すみませんっ!! 余計なことして却って迷惑おかけして……」


廊下の真ん中で足を止めて、私は思いっ切り頭を下げた。
高遠さんも立ち止まって、私を振り返っているのがわかる。


「……人事部長にも、出過ぎた真似はするなって言われたんです。でも気になって。これで最後にするって思ってたのに……」
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