常務サマ。この恋、業務違反です
必死に謝る私の頭上で、一瞬空気が和らいだ。
恐る恐る顔を上げると、少しだけ困った表情で、高遠さんが柔らかい笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
そんな優しい瞳に、胸が大きく疼くのを感じた。


「佐藤さんに何を言われたか知らないけど、それは気にしなくていい。それよりも、自分の心配しろって。
……朝五時を過ぎればセキュリティも解除されるけど……それまでは執務室で俺と一緒にいるしかないんだよ」

「は、はい。……すみません」


慌ててもう一度頭を下げる私に、高遠さんは苦笑を漏らした。


「……バ~カ。謝ってないで、少しは警戒しろ。それとも、そんな心配、毛頭ないか?」


そう呟いて、高遠さんは私の姿を頭の先から爪先まで見下ろすように眺めた。


「……そうだろうな。そうじゃなきゃ、さすがにそんなラフな格好で来る訳がない」

「これはっ!!」


しみじみと呆れ顔で言われて、私は自分の格好を初めて意識した。


確かに、呆れられても仕方がない。


深夜とはいえオフィススタイルには程遠い格好。
キャミソールにカーディガンを羽織ったジーンズスタイル。
用を済ませたら直ぐに帰るつもりでいたんだから。


「だって……。お風呂も入ったし、後はゆっくり寛ぐつもりでいて……」

「この時間だし、それも当然だろうけど。とりあえず戻ろう。執務室ならエアコンもいくらか作動してるし、その格好でも寒くはないはずだから」


そう言って肩を竦めると、高遠さんは先に立って執務室に戻って行く。


高遠さんが私が持って来たお弁当に箸をつけるのを眺めながら、ポツポツと会話をした。


やがて午前一時を迎えて、高遠さんは自分のデスクに戻ると、パソコンを起動させてフランクフルトとの電話会議を始めた。
英語とは違う聞き慣れない言葉をBGMにして、私はソファに座ったまま、ゆっくりと目を閉じた。


そうしていつしか、うつらうつらと身体を揺らし始めて……。
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