ぎゅぎゅっと短編詰め放題
私は無性にも、泣きたくなってしまうんだ。
あんなにも、恐怖の対象だった、塚原さんが、今では好きで好きで仕方がないんだ。
彼の言葉に、喜怒哀楽して、馬鹿みたいだ。そんなことはとっくにわかってる。
どうやら、もう引き返せないところまで来てしまったみたいだ。
「……」
本当、何てことだ。
教官との恋なんて、叶うはずもないのに。
もし仮に、ほんのわずかの可能性で、叶ったとしてもわたしだけが追いかける、恋だってことわかってるのに。
惚れてしまったら、理屈なんて考えられないんだね。
「はい、よくできました」
運転中、塚原さんことで頭がいっぱいで、ちゃんと集中しなくちゃいけなかったのに、うわの空だった。
ひたすら淡々と時間が過ぎて、あっという間に指導が終わり、帰りの身じたくをする。
「……」
人気の出た鬼教官の周りといったら、やっぱり人だかりができていた。
……悔しいけど、私はその集団に混ざってかれの名前を呼べるような勇気を持ち合わせていない。
だって。勇気、なんてもの、この前、すべて使ってしまったから。