phanlife
閉場した演舞場に、硝子が割れる派手な音が響いた。滑らかな黒色のカーテンが、夜風にさんざめく。
またたく間にざわめきが広がり、部屋はぱっと光に満ちた。
演舞場は、人で埋め尽くされていた。彼らの胸板鎧(ブレス・プレート)や、腰にある剣は、とうてい一般人には見えない。明らかに兵士だった。
「おや、これは」
そんな人だかりの中心で、黒ずくめの男はふっと笑う。
彼は、白きワイシャツを、黒きネクタイできっちりと締め、黒のスラックスを穿いている。黒きシルクハットの影が、顔のほとんどを隠していた。白に近い灰色の髪は、帽子の外に、少し出ている。
「貴様か。我が国ハマドルァーデスの国宝を、盗まんとする馬鹿者は」
かつりかつりと、足音が聞こえた。
警備兵は、部屋の西から中央に向け、まっすぐと道を開ける。開いた道の先にある、西の大扉が見て取れた。
その道を、一人の男が悠悠と歩く。年恰好は、五十過ぎだろうか。深く刻まれた目尻の皺と、白い短髪が目についた。体を包む滑らかな黒マントが、ゆるりと靡く。威厳のある瞳が、黒ずくめをひたりと見ていた。
そんな黒ずくめ――怪盗スティーリア、と名乗る男は、ふっと笑う。
「馬鹿者、ですか……まあ、それでも構わないですけれど」
「ふざけたこそ泥だな」
怪盗きどりは男の言葉を聞き流して、隣にある机に、すっと手を翳した。そこには、いくつもの鎖と錠で繋がれた、掌ほどの木箱がある。
翳した手が、捻るように回される。彼は机を一瞥して、やれやれと肩を竦めた。
「ないですね」
残念そうな呟きに、あちこちから溜息がもれた。男はただ立ち止まり、目を見開かせている。
それは当然だ。鎖された木箱は、鎖と錠の上に、開いて置かれていたのだ。
「せっかく、復活劇の予告にこの街をお選び致したのに」
「一体、お前は何者だ?」
男は怪盗きどりを睨み付け、問うた。
確かに、お喋りに付き合う余裕はなくなるだろう。呪文を使わない、今の光景を見たなら。
しかし怪盗きどりは、おや、と声を上げて笑う。まるで、それさえも遊びであるかのように。
またたく間にざわめきが広がり、部屋はぱっと光に満ちた。
演舞場は、人で埋め尽くされていた。彼らの胸板鎧(ブレス・プレート)や、腰にある剣は、とうてい一般人には見えない。明らかに兵士だった。
「おや、これは」
そんな人だかりの中心で、黒ずくめの男はふっと笑う。
彼は、白きワイシャツを、黒きネクタイできっちりと締め、黒のスラックスを穿いている。黒きシルクハットの影が、顔のほとんどを隠していた。白に近い灰色の髪は、帽子の外に、少し出ている。
「貴様か。我が国ハマドルァーデスの国宝を、盗まんとする馬鹿者は」
かつりかつりと、足音が聞こえた。
警備兵は、部屋の西から中央に向け、まっすぐと道を開ける。開いた道の先にある、西の大扉が見て取れた。
その道を、一人の男が悠悠と歩く。年恰好は、五十過ぎだろうか。深く刻まれた目尻の皺と、白い短髪が目についた。体を包む滑らかな黒マントが、ゆるりと靡く。威厳のある瞳が、黒ずくめをひたりと見ていた。
そんな黒ずくめ――怪盗スティーリア、と名乗る男は、ふっと笑う。
「馬鹿者、ですか……まあ、それでも構わないですけれど」
「ふざけたこそ泥だな」
怪盗きどりは男の言葉を聞き流して、隣にある机に、すっと手を翳した。そこには、いくつもの鎖と錠で繋がれた、掌ほどの木箱がある。
翳した手が、捻るように回される。彼は机を一瞥して、やれやれと肩を竦めた。
「ないですね」
残念そうな呟きに、あちこちから溜息がもれた。男はただ立ち止まり、目を見開かせている。
それは当然だ。鎖された木箱は、鎖と錠の上に、開いて置かれていたのだ。
「せっかく、復活劇の予告にこの街をお選び致したのに」
「一体、お前は何者だ?」
男は怪盗きどりを睨み付け、問うた。
確かに、お喋りに付き合う余裕はなくなるだろう。呪文を使わない、今の光景を見たなら。
しかし怪盗きどりは、おや、と声を上げて笑う。まるで、それさえも遊びであるかのように。