phanlife
 ……俺、寝不足だっけ?
 まあ、対面した今では、気配や殺気がはっきりと分かる。つまりは疲れてただけなんだろうと、勝手に決め付けた。
「"何時如何なる時を過ごす神風よ"」
 呪文を唱え、ゴブリンとの距離を詰める。
 「ギシャァ!」と気合の入った鳴き声を上げ、ゴブリンは刃を向けてくる。しかし、頭がよくなく動きも鈍いゴブリンは、攻撃が避けやすい。俺はすっと横に避け、鳩尾に懇親の一撃を食らわせる。
「グジァッ」
「"我、時を留める者なり"」
 なんだか可哀相な悲鳴を上げて倒れこんだゴブリンと、すぐに間合いを取る。
「"我先に見ゆる者 時を留められし者"」
 呪文を唱えながら、俺は腰にあるステッキを抜いた。
 ステッキを右手に持つと、長剣並の身がきらりと輝いた。白銀の身に魔力を宿した、俺の愛用棒、白月夜(ホワイト)だ。
「シャアアァァ!」
 早くも復活したらしく、ゴブリンが間合いを詰めてくる。
 俺は薙がれた刃をひょいと避け、そのままステッキでゴブリンの足元を叩いた。もちろん、重心の掛っていない左足を。
 ゴブリンは、こんな攻撃が来るとは思ってもみなかったのだろう。見事につんのめり、剣の柄が鳩尾にヒットする。少しも吐かないってことは、お腹が空ってるのかもしれない。
「"今此処に神風の拘束を在らん事を"」
 俺は呪文を続けた。慌てて俺を見たゴブリンに、にっこりと笑う。
「時の拘束(クロゥハイレ)」
 そして言霊を口にした。
 一瞬にしてゴブリンの動きが、時が停止する。まるで彫刻が倒れ行くように、それは地面に倒れ伏した。

 ◆

 波のよう広がった、歓喜と拍手で大通りが沸き立った。人が危ない時、野次馬をしていたのに良い度胸だ。
 それは、とにかく置いておいて。
「はあ……」
 考えるだけで溜息が漏れる。
 何が悲しくて、街中でモンスターと戦わなきゃいけないのか。他の街なら許せるが、フィルミー王国の首都、フィルミーシティだと腹が立つ。平和な国と観光で銘打っているのだ。どこが平和なんだと、小一時間観光業者に問い詰めたい。
「城の奴に文句の一つでも言ってやる」
 俺はいらいらして、ぽつりと呟いた。
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