phanlife
 すると、図ったかのように辺りが静まり始めた。数秒と置くかず、拍手すらも止まってしまう。
 一瞬にして、脳内に嫌な予感が走る。

 もしかして、聞こえてたんだろうか。いや、でも城に対しての不満だし。
 まさか学院で「城を侮辱する者には死を与えるべき」とか宗教まがいなもの、叩き込まれてたりしないよな?

 つうっと頬に冷汗が伝った。もしかしなくても、なかったことにした方が身のためかもしれない。
「や、やっぱり今の発言は」
「何でしょうか」
 取り消します、と続くはずの言葉は、後ろからした声に遮られた。それはまるで、鈴を転がすような声だ。
 再び沈黙が訪れる。
 それは俺に精神的ダメージを与えるのに、十分な沈黙だ。何でしょうか――それはつまり、城の奴が俺の呟きに返したんだろう。
 俺は別に、城に良い顔をしたい訳じゃない。
 ただ、自分のちょっとした本音を本人に聞かれた時、とてつもないダメージを受けるのだ。いわゆる「A君の話題で盛り上がっていた時、真後ろにA君が居た」的なメンタルショックである。
 いや、もしかすると、違うかもしれない。他の人に話しかけているのに、疑心暗鬼に陥って、勘違いしてるだけかもしれない。
 そうだ、違う。今のは空耳だよな。
 モンスター退治で、よっぽど疲れたらしい。俺は早く休むため、宿へと一歩踏み出した。
 さて、今日の夜ご飯は何食べようかな。まだ時間も早いし、遅めのおやつでも良いな。
「聞こえているでしょうか」
 飲み物は青汁で良いけど、さすがにお菓子には合わないしなあ。
「ノリィ・ラック殿」
「はい?」
 俺はぱっと振り返った。
 翠の長髪を高い位置で結った一人の女性が、俺を見つめていた。その人を先頭に、警備兵らしき人が十数人立ち並んでいる。
 おそらく、先頭の人は地位が高いのだろう。他の警備兵とは違う、高価そうな軽装の上に、これまた高価そうな鎧を着けている。
 おまけに言うと、かなりの美人さんだ。その肌は抜けるように白く、鼻筋はすっと通っている。
 ところで、何で俺の名前知ってるんだ……ろ…………。
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