もしも緑間くんと恋をしたら
放課後、私はいつも通り帰宅しようと足を進めた。

雀荘で働いている叔父さんのところへ訪ねて、赤筒をもらおうと企んでいた。

古い牌なら倉庫に眠っているはずだ。

それに古い牌なら、たくさんの喜び、悔しさ、時に辛い気持ちがたくさん込められているだろう。

そんな牌を私は、お守りにしたい。

それに、私に麻雀を叩き込んだのは紛れもなく叔父さんだから、少しのワガママぐらい聞いてくれるだろう。

ーキュッ、キュッ。

開きっぱなしの体育館から、シューズが鳴る音が聞こえた。

今まで素通りだったのに、無意識に振り返ってしまう。

そして、その姿に目をやると髪の色で誰が鳴らしているのかがすぐに分かった。

伸びきった指先が、軽やかにボールを放つ。
バスケットゴールを通過し、ネットが静かに揺れる。

吸い込まれるように、静かに通過していった。

「緑間くん!」

私は、開いた扉の縁から彼の名を無意識に呼んでいた。

「なんだ、斉藤か」

手を止めてこちらを見てくる緑間くんの姿に、胸の高鳴りが激しくなる。

「ラッキーアイテム、今日一日役に立てた?」

「当然なのだよ」

「そっか。緑間くんって何座なの?」

「7月7日、蟹座なのだよ」

「そうなんだ!私もおは朝見るようにするね!」

彼自身の表情は変わらないのに、私は自然と笑顔になる。
話せている時間が、すごく嬉しいらしい。

「斉藤は何座なんだ?」

「8月8日の獅子座だよー!」

「なるほど。今日は獅子座との相性が良かったのだよ」

「相性占いまであるんだね!ってことは、蟹座と獅子座が悪いは話しかけないようにしなきゃダメだね」

私は冗談のつもりでそう言った。が、彼にとっては冗談じゃなかったらしい。

「そうしてくれると有難いのだよ」

と言われてしまった……。

本気でおは朝の占い見なきゃキツイなー。
と心底思った。

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