もしも緑間くんと恋をしたら

「叔父さんと取引しないか？」

叔父さんは考えたあと、そう言ってきた。
取引って……。

「内容は？」

私は、何を言われるのか怖くて生唾を飲んだ。

「高校生になったら、ここでバイトしないか？そして、高校生が集う麻雀倶楽部に入って欲しい」

「え？どういう魂胆……？」

「高校生が集う麻雀倶楽部。それは公にはされていないが、実は存在していてな。そこに出て、斉藤の名を広めてくるんだ」

叔父さんのいきなりの言葉に、私は驚愕した。

（何言ってんの？）

それが本音だった。

「斉藤の名を広めて、何かメリットでもあるの？」

そう尋ねると、麻雀の新聞を取り出しとある見出しを見せてきた。

「高校生麻雀、注目する選手に密着……」

「そう。これに載るためだ」

「え？」

「そして、この雀荘を宣伝してきてくれ」

私は叔父さんの頼みに即答できず、しばらく考え込んだ。
宣伝してきてくれっていうけれど、これって本当に牌に愛され、勝ち抜いた高校生にスポットライトが当たるんだよね。

それって……。

「なんだ。自信ないのか？」

黙り込む私に、叔父さんは鼻で笑うように挑発してきた。

「約束しても、叶うかどうかは分からないでしょ？」

確かに、今の私には自信がない。

「叶うかどうかなんて、そんなことじゃない。やるかやらないか、だ」

叔父さんは、今までにないくらい真剣な目をして言ってきた。

叔父さんは……私に何を期待しているのだろう。

「分かったよ。やるよ」

私は叔父さんの挑発に乗って、大きな声ではっきりと返した。

「おい！みんな聞いたか？！みちるちゃんが高校生麻雀倶楽部に入るって！」

何故か佐々木さんが興奮していた。

「そうと決まれば……」

叔父さんの口元が緩んだ。

「明日は携帯ショップまでデートだな」

この流れは……叔父さん名義で携帯電話を契約してくれるってことかな。

「叔父さん？」

「取引っていったろ？叔父さんが契約してやるよ」

やっぱり。これ、お父さんに怒られないかな……。

「お父さんに怒られないかな？ってか？」

「うん」

「大丈夫、大丈夫！叔父さんが言っておくから！な？」

気さくな叔父さんは、笑って事を運ばせるつもりだ。

「ねぇ、どうして高校生麻雀倶楽部があるって普通に教えてくれなかったの？」

「いつ教えてやろうか、それはずっと思ってた。でも、まだお前には迷いがあるように思えてな……」

叔父さんは、右手で頭を掻きながら、気まずそうに微笑む。

「迷いは確かにあった……。友達にも麻雀が好きなこと隠してたし。でも、教えてくれたら取引なんてなくても入ってたよ！私！」

「それは吹っ切れたからだろ？まぁ、いいさ。明日、またおいで。それとも打っていくかい？」

丁度、四人打ち……半荘が終わったみたいだった。今から打つにはすごくいいタイミングだった。

「……いいよ。負けない」