水晶の少年 ~SEASON~
1.時を止めた年月(じかん)時間 - 由貴 -
高校三年生のクリスマスイヴ。
受験を控えた私たちには、遊ぶ余裕なんてなくて、
その日も、私・時雨・飛翔は三人で集まって
医大受験に向けて必死になっていた。
目指すは、飛翔が幼い時、通っていた
神前悧羅学院の医学部。
神前に在籍経験がある飛翔以外、
私と時雨にとっては、完全に外部入学なわけで
今日までにも、何度も試験が繰り返された。
氷雨はと言えば……時雨や私が、
進路のことを訪ねてもいつもはぐらかせてばかりで、
クリスマスイヴに彼女、妃彩ちゃんとデートの約束があるとかで
早々に飛び出していった。
だけど……その時の私は、氷雨が大変な何かを
抱え込んでいたことも、それが……親友(とも)を見送った
最期になることも知る由もなかった。
*
「時雨、ここの問題なんだけど」
私、氷室由貴(ひむろ ゆき)は
幼い頃から住ませて貰っている金城家の一室で、
飛翔と三人で受験勉強をしていた。
ふいに携帯電話が、ライトを点滅させながら
着信を告げる。
「時雨、携帯。
着信、入ってるよ」
そう言いながら、時雨の携帯電話を掴んで、
彼に手渡した。
時雨は受信したそれを見つめたまま、
無言で固まった。
「時雨、何かあったの?」
問いかけるも、時雨の表情は変わらない。
すかさず、飛翔が時雨の携帯を覗きこんで
顔を歪める。
「何?
飛翔、時雨なんのメール」
問いかける私に、時雨の手から
携帯電話を奪い取った飛翔は画面を私の方へと見せる。
送信者:
金城氷雨(かねしろ ひさめ)
添付されているのは、
小さくて見えづらい、人の顔写真。
続く本文は短い。