2番目の唇
「よし!帰るぞっ」
高らかに宣言したところへ、また鳴り響く内線の呼び出し音。
ここはシステム管理部。
さっきかけてきたヤツだろうか?
そうでないにしろ、こんな時間にかかってくる電話なんて、トラブルに決まってるんだけれど。
私は電話から壁に掛けられた味気ない時計に目を移し、ため息をついた。
PM 9:04
9時には帰ろうと思っていたのに。
わが社の就業時間は、AM9:00~PM6:00
こんな時間にかかってくる電話を無視しても、上司の葛西はきっと咎めない。
けれど、こんなにも鳴り響く電話を取らずに帰るには、私は少しばかりお人よし過ぎた。
特に予定の無い火曜日の夜。
あと少し残業が長引いたとしても、待つ人もいない一人暮らしの身だ。
普段は特に感じないことだったが、こんな時、イイ年をして、言い訳にできる存在のいないことが悲しかった。
まあ、そんな存在がいたとしても、それを理由にさっさと帰る自分の姿なんて想像できないんだれど。
中途半端に仕事熱心な自分にちょっとだけ重い溜め息をついて、私はしぶしぶ下ろしたばかりの受話器を取り上げた。