もう一度あなたに恋をした。


「…あんま心配かけんでください。」


「……」


「電話ぐらいは出てください。」


「……」


「先輩、聞いてますか?」




抱きしめていた手を緩めて、あたしを見下ろす佐伯くんの冷たい手が


そっと、頬に触れて。



涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったあたしの顔を、両手で優しく包み込んで上を向かせる。



親指で涙を拭い取り、フッと微笑むその顔は、月明かりに照らされてやけに綺麗で…


思わず見惚れてしまう。






すると、ふわりと佐伯くんの温もりに包まれる。


今度はそっと、まるで壊れ物を扱うかのように、優しく。




温もりと同時に、佐伯くんのせっけんの香りもあたしを包み込んでくれた。

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