会社で恋しちゃダメですか?
打ち合わせは、リーダーたちにほのかな熱気を残し、終了した。
「池山さん、ありがとう。よくわかってるね」
部屋を出る園子の背中に、山科が声をかけた。
「ありがとうございます。わたし、しばらく生産部にいたことがあるんです」
「そうか」
山科が満足そうな顔をすると、園子の胸にほわっと暖かいものがこみ上げる。
仕事で評価されると、こんなにもうれしいんだ。
オフィスに戻ると、常設してあるドリップ式のコーヒーが煮詰まって、何とも言えない匂いがしているのに気づいた。園子はポットを手にもって、そのまま給湯室へと向かう。ここもまた古い給湯室。ガスの点火ボタンを押して、ポットを洗い始めた。
「お、園子」
振り返ると、給湯室の入り口に、朋生が立っていた。
「おつかれさま」
「おつかれ」
朋生が側に寄ってくる。
「五倍なんて、無理だよな」
「でも、方法はあるって、部長が言ってたじゃない?」
「道のりは長いな」
朋生は溜息をついた。
「あ」
朋生は思いついた、と、ポケットから紙を取り出した。
「なあ、お前、ミュージカル興味ある?」
「うん……好き。なんで?」
「土曜日のミュージカルチケットが二枚あるんだけど、いかない?」
「残念。土曜日、両親と約束してるの」
「そっか……」
「紀子、誘ってみたら? 興味があるかも」
「……オッケー。じゃあ、紀子に声かけてみるな」
「ごめんね」
「いいって」
朋生は再びチケットをポケットにくしゃっと突っ込むと、給湯室から出て行った。