会社で恋しちゃダメですか?
二
それからしばらくは、以前の日々が戻って来たかのような毎日。心のアップダウンもなく、仕事に熱中できる環境だ。
山科と園子の間にあったある種の緊張感は、まるで水に絵の具を落としたかのように、わあっと広がって消えて行ってしまった。園子の心の中に、相変わらずぴりぴりとした失恋の傷はあったが、今はかさぶたができている。山科が心に絆創膏を貼ってくれた。
「池山さん、来て」
山科は以前通り園子を仕事で頼るようになった。それはもうすごい量の仕事を、短時間で仕上げなくちゃいけないが、園子は純粋に嬉しい。山科の役に立っているということが、死ぬほどうれしかった。
新工場の稼働まであと少し。口コミサイトでは、流通が始まるのを待っている人たちがいた。予定どおり動いている。あとは宣伝のタイミングを間違えなければいい。
営業が出ている、午後の早い時間。
山科に頼まれた仕事を、猛スピードで仕上げて行く。
「気合い入ってる、園子」
紀子が隣で言う。
「うん、これ今日中なんだ」
「部長はイイ男だけど、直で下につくのは嫌だなあ」
紀子は紙パックのアサイージュースを飲むと、笑いながらコンピュータに向かった。
「すみません」
そのとき、聞き覚えのある声が、オフィスの戸口のところから聞こえた。
振り向くと、あおいが戸口のところに立っていた。
紀子が「うわっ」と小さく声をあげる。
「顔、ちっちゃー」