会社で恋しちゃダメですか?
朋生のすぐ後に続いて、水を入れたポットを手に給湯室を出る。
そこに山科が立っていた。
「わっ、びっくりした」
園子は思わず声に出す。
朋生は振り返らず、ずんずんと廊下を進んでいる。もうすでに背中がかなり遠い。
山科は腕を組んで、壁にもたれた。
「池山さんは……劇的に鈍いのか、それとも、百戦錬磨の悪女なのか」
「はっ?」
園子は意味が理解できず、変な声が出てしまう。
山科はじっくりと園子を見る。
それはまるで、観察と言ってもいいような、そんな視線で、園子はいたたまれなくなる。
「きっと、前者だな」
「あの……どういうことですか?」
山科はいたずらっ子のような表情を浮かべて「彼は他の女の子は誘わないよ」と言う。
「え? でも……山本くんは、紀子と仲がいいですよ」
「仲がよくても、誘いたかったのは池山さん」
「ん?」
そこでやっと、園子は山科の言わんとすることが分かった。
「ご、誤解ですよ」
「そうかなあ」
「そうです。他意はないはずです」
「まあ、いいけれど」
山科はそう言うと、にやりと笑う。
そして、無言で給湯室の前を歩き去った。
園子はポット片手に、呆然と立ち尽くす。
それから「もしかして、今かなり失礼なこと、言われたんじゃない?」と思いついた。