会社で恋しちゃダメですか?


園子はすぐに記事を消し、デスクの上に、ぽてんと頭を乗っけた。


このあたり、部長がいつも、手を置いてるところ。


目を閉じると、自然と涙が出て来た。
彼の大きな手が、頭を撫でたことを思い出す。
園子の髪に、彼の指を絡ませたことを思い出す。


胸がきゅっとなって、園子の口から泣き声が漏れてくる。


目を閉じたまま「好き」とつぶやいた。


「君……」


突然、部長の声がして、園子は驚いて目を開けた。部屋の真ん中に、山科が立っている。記事で見た上質なスーツを来たままだ。


「あっ」
園子はがばっと身体を起こした。慌てて立ち上がる。


「え? いつ、そこに……」
園子の頭の中に、警報がなる。


まさか、聞かれて……。


園子の顔に血が上る。涙を手のひらでぬぐって「失礼しますっ」と部屋を駆け出そうとした。慌てすぎて、デスクの角に身体がぶつかる。


「あぶないっ」
山科が園子に手を差し出した。勢い余って、山科の腕の中に倒れ込む。スーツの奥に、いつもの山科の香りがする。園子はパニックになって、腕をぎゅっとのばして山科の身体を押しのけた。


すると、山科が園子の腰を力一杯引き寄せた。


「あ」
声にならない小さな叫び。


次の瞬間には、山科の唇が、園子の唇に触れていた。


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