会社で恋しちゃダメですか?



「君が好きなんだ」


週明けの会社。始業前のざわついた雰囲気。月曜日のけだるい会話。
園子はあれが現実におこったのか、信じられないでいる。


あの夜、すっかり力の抜けてしまった園子を引っ張って立たせると、山科は何事もなかったように振る舞った。


「ああ、書類ありがとう。助かった」
そう言って、椅子に座ると仕事を始める。


「あの……」
呆然と立ち続ける園子に「おつかれ」と笑顔を向ける。


園子は呆気にとられながらも、オフィスを後にした。足下がふらついて、まっすぐあるけない。何度も頭の中で山科の唇と息づかいを思い出す。おそらくゆでだこのように顔を真っ赤にして、電車に乗っていただろう。


「おはよう」
紀子がおそるおそる園子に声をかけた。


「あ、おはよう」
園子は未だ夢見心地で、焦点の定まらない目で紀子に返事をする。


「大丈夫?」
「何が?」
「ほら、週末。随分凹んでたから」
「……ああ」


園子はそう相づちをうつと、とたんに顔が真っ赤になった。


予想と反する反応に、紀子が「あれれ。何かあった?」と身を乗り出してくる。


「えっと、あの……」
園子は説明できず、もじもじしてしまった。


「やっぱり、新しい恋が始まった?」
紀子が探るような視線で、問いかける。


「わっ、わかんない。ちゃんと言われてないし」
「ほほー」
紀子が腕を組んで、目を細めた。

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