会社で恋しちゃダメですか?
「なんでしょうか」
園子が身を屈めたまま訊ねると、山科に突然ぐっと腕を掴まれた。
そして軽く頬にキスをする。
思わず手で頬を押さえる。あまりの驚きで、腰が抜けそうになった。よろめく園子を、山科が「わわわ」と慌てた声で助け上げた。
山科は園子の腕を支えながら、照れたような顔をする。よく見ると、なんだか顔が赤い。
「俺もどうやって池山さんに接したらいいか、わかんないんだ」
園子は頬に手を当てながら、山科を見つめる。
「あんまり見ないで。こういうの慣れてないから」
山科が自分の目を手のひらで隠す。
「は、はい」
「会社では、今まで通り」
「はい」
「じゃあ、もう一度」
山科は座ったまま、園子を引き寄せると、今度は唇に軽くキスをする。
ぱっと手を離すと、山科はうれしそうに笑う。
「仕事、よろしく」そう言って、手を上げた。
園子は胸が張り裂けそうなほど、ドキドキしている。部屋から出ると、思わず唇に手をふれた。幸せの笑みがこぼれる。
それから、軽やかな足取りで席に戻り、何事もなかったように仕事を始めた。