会社で恋しちゃダメですか?
「園子さあ」
ランチタイム。
紀子がおにぎりをほおばりながら、園子に訊ねた。
「これから、どうするの?」
パンを持っていた園子の手が、ぴたっととまる。そのまま行方を失って、ぱたんと机の上に落ちた。
「どうするって?」
園子は紀子の言わんとすることを充分理解していたけれども、あえて聞いてみた。
「部長は長男なんだよね」
「うん」
「あおいとも昔、引き離されたって言ってたじゃん。ゆくゆくはお見合い相手と結婚するって、言ってなかった?」
「う……ん」
紀子が厳しい顔をする。「ちゃんと聞かなきゃ。遊ばれるのは口惜しいでしょ」
「遊ばれるって、そんなこと」
「いやいや、男ってわかんないし。結婚するまでは楽しく遊びたいってことかもしれないじゃない」
「……」
「確信が持てるまで、みだりに寝ちゃだめよ」
紀子がそう言ったので、園子は思わず「そんなことしないよ!」と声が裏返ってしまった。
紀子がきょとんとした顔をする。「ええ? 恋人同士なら普通のことでしょ。だから気をつけろって、言ってるの」
園子に焦りが出てくる。
そうか、キスだけじゃ終わらないんだ。
あんな、痛いこと……しなくちゃいけないの?
「園子? ねえねえ、まさかとは思うけど……未経験?」
「……経験は、ある」
園子は思い出したくもない記憶に苛まれながら、辛い気持ちでそう答えた。
「でも、ひどすぎて、言いたくない」
紀子が同情の視線を送ってくる。園子は突然ぐったりと疲れてしまった。
「とにかく、部長に聞いてごらん。これからのこと。セックスを心配するのは、その後で」
紀子は指導者のように、胸を張ってそう言った。