会社で恋しちゃダメですか?


それから小一時間。
園子は気持ちを切り替えて頑張った。だらだらと残業する訳にもいかないし、かと言って仕事を放っておく訳にもいかないからだ。


最後にドキュメントを保存して、園子は「うーん」と伸びをした。結局最後の一人になってしまった。シーンと静かなオフィスを見回すと、とたんに心細い気持ちになってくる。


また痴漢が来たら。


突然そんなことを思い出して、背中がぞくぞくっとする。園子は超スピードで帰り支度を始めた。


コンピュータの電源を落とす。それから扉へ歩いていき、電気のスイッチを消した。パパパっと、暗闇がオフィスを覆う。園子は怖くて目をそらした。お化けも痴漢も、すごく怖い。



そこに「ああ、やっぱり」と山科の声がした。


「部長?」
廊下に顔を出してみると、山科が階段からあがってくるところだった。


「やっぱり、まだいた」
山科が笑う。


「あれ? どうされたんですか」
「名刺入れ、やっぱり今日中に手元に置いておいたほうがいいかと思って」
そう言うと、ちらっと園子を見る。それから「君にも会いたかったし」と言った。


いつものようにドキドキが始まる。
紀子の言葉が頭をよぎる「みだりに寝ちゃだめよ」


すでに私服に着替えられている。七分袖のブルーのシャツに、コットン地のパンツ。スーツ以外の姿を久しぶりに見た気がする。


「ちょっと待ってて」
そう言うと、山科が真っ暗なオフィスへと入って行く。園子もなんとなく後ろからついていった。

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