会社で恋しちゃダメですか?
「慌てちゃって、カワイイな、朋生」
紀子が意地悪っぽく言う。
「なんでかな」
園子が訊ねると、紀子は「気づいてないの?!」と大きな声をあげた。
「え? 何を?」
「朋生、いっつも、園子のこと見てるよ。そろそろ声かけるかなーって思って見てたけど、撃沈したんだね」
「……うそ……」
園子はあぜんとした。そんなこと、ちっとも気づいてなかった。
「園子は今、山科部長に関心ありだし。朋生も焦るだろうね、あの男相手じゃ」
「ビジネス上の関心なんだけど」
「はいはい」
紀子はよくわかっておりますというように頷くと、仕事に戻る。
園子は居心地の悪さをごまかすように、コーヒーを一口飲んだ。
すると「池山さん、ちょっと来てくれる?」と山科から声がかかる。
「はい」
園子はなんだかほっとして、膝掛けを椅子にかけて、立ち上がった。山科は仕事だけに集中させてくれる。有り難い。
部屋にはいると、山科はジャケットに手を通しているところだった。
「池山さん、おつかい行ってくれる?」
「はい」
「TSUBAKI化粧品の統括事業部佐々さん宛てに、この資料とサンプルを持って行ってほしいんだ」
そう言って、茶封筒を渡された。
「わかりました」
「僕はこれから、申し訳ないけれど私用で出る」
「はい」
「夕方には帰るから」
「わかりました」
「じゃあ、よろしく」
山科はそう言って、部屋を出て行く。心なしか、いつもよりも若干憂鬱そうに見えるのは気のせい?
園子はぼんやりと、そんなことを思った。