会社で恋しちゃダメですか?
第五章



山科は意外と独占欲が強く、機会があればキスしたり触れ合っていたい人のようだ。


オフィスでのスマートなイメージとは異なり、二人きりになるととにかく甘い。そんな山科を見ているのが自分一人だと思うと、園子はむずむずとした気持ちになった。と言っても、プロジェクトが進行中の今、外で一緒に過ごすことなどほとんどなかったけれど。


山科は不服そうだったが、園子は少しほっとしていた。オフィスの中でもちょっとしたタイミングで、すぐにキスをしてくるので、誰もいないところへ行ったら、関係が発展してしまうのじゃないかと懸念していたからだ。


これ以上先へ進んだら、どうなるだろう。
そう考えると、園子はひやりと身体が冷たくなった。


園子には、消したくても消せない、苦い思い出がある。


高校の時、初めてボーイフレンドができた。
彼はかっこいいというタイプではなかったけれど、優しくて園子は好きだった。


軽いキス。
ちょっとした触れ合い。


思春期の園子は、その先にあるものがどんな体験なのか知りたいと、漠然と思っていた。けれど彼は違った。園子とのセックスを熱望していたのだ。


彼も初めて。
園子も初めて。


園子は優しく扱われたかったが、余裕のない彼にそれは難しかった。
激しい痛みだけが残る行為。


「やめて」と言っても、幼い彼が止められる訳もなく、園子は初めてを失った。ベッドの中で、例えようもない虚無感を感じたことを、今でも忘れられない。


セックスって、こんなもんなんだ。


それ以来、園子はセックスに抵抗を感じてしまう。何度か恋人もできたけれど、身体の接触は避けるようになってしまった。


だからキスも子供のまま。

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