会社で恋しちゃダメですか?


プロジェクト会議の少し前の時間。園子は準備を進める。


工場の稼働がスタートしたら、通販の窓口を開設する。試供品を配っていた病院と薬局に商品を置いてもらう。もちろんドラッグストアにも、これまでどうり商品を卸す。商品が消費者の元にわたり、口コミでも上場の評価を得始めたら、宣伝活動を行って行く。


今のところ、計画通りにすべて動いている。商品を求める声は高くなっており、徐々に供給を増やす形をとることで、商品の価値はあがっていくだろう。


山科の部屋の扉をノックする。


「失礼します。メンバーがそろいました」
「ああ、わかった」


今の山科は、凛としたリーダーだ。椅子から立ち上がる仕草。ペンを持つ手。すべてがかっこいい。


すれ違い様に、園子のほっぺたを、誰にも見えないように、きゅっとつまむ。


「さあいくよ」
そう声をかけた。


そこに山科の携帯が鳴る音がした。ポケットから携帯を取り出すと、耳にあてる。


「もしもし、ああ」
気軽な雰囲気で話しはじめる。


「そうか、いいよ、気にしない。またな」
山科はそう言うと電話を切る。それから少し考えるように眉を寄せた。


「大丈夫ですか?」
園子が訊ねると「ああ」と短く一言だけ返す。


それからいつものように会議室へと入っていった。

< 145 / 178 >

この作品をシェア

pagetop