会社で恋しちゃダメですか?
運転手が扉を開くと、社長が降りる。園子の方の扉もあいて、園子は促されるまま降り立った。
なにもない、広い場所。それでも緑の香りが風の中で渦をまいて、園子と社長を取り囲む。園子は隣の社長を見た。
隣に立つと余計に身長の低さが目立った。園子よりも少し高いぐらいでしかない。それでも、強烈な存在感。園子は何もしていないのに、なぜか叱られているような気持ちになって、首をすくめた。
「お嬢さん」
社長が話だす。
「はい」
「三年後をめどに、ここに新しい社屋を建てようと考えています」
「そうですか」
社長は何を考えているのだろう。さっぱりわからない。
「TSUBAKI化粧品は、元はただの薬屋だった。でも今は従業員数四万人をかかえ、子会社を含めると売上高は九千億円です」
園子はその数字を言われても、規模が違いすぎてぴんとこない。社長は園子を表情を見ると、うっすらと笑みを浮かべた。
「わたしが一つ決断を間違えば、その会社が消える。従業員は失業し、日本経済に大きな影響を与える」
「……」
「達也は、わたしの息子です」
社長が静かに、でもはっきりした声でそう言った。
園子はだんだんと言わんとする意味がわかってきた。
もう、きた。
引き裂かれる時が。
早すぎる。
園子は震えだした。