会社で恋しちゃダメですか?
二
園子は山科に何も言わなかった。余計な心配をかけたくないと思ったし、あの社長の口ぶりを思うと、自分の問題なんだと感じたからだ。山科の立場を変えることなどできない。彼はTSUBAKI化粧品の息子で、いずれはたくさんの従業員を率いるリーダーになる人だ。
ただ。
園子はデスクに座る山科を見る。
山科の様子が少しおかしい。先日の電話以来、どことなく上の空で、たまに考え込んでいる。
周りはまだ気づいていない。他の社員の前では変わらずスマートな上司であり続けている。
父親が園子に連絡してきたことを、もしかして知っているのだろうか。引き離される日が近いということに、気づいているのだろうか。
園子の不安は日に日に高まっていた。
「池山さん」
まだお昼前の時間。少し蒸し暑いくらいの山科の部屋で、園子は声をかけられた。
「はい」
「今夜、予定ある?」
「いえ」
園子は首を振る。また新しい仕事が増えるのだろうか。
「うちにこないか」
山科が言った。
ワイシャツ一枚の姿で、ネクタイはラフな感じに緩んでいる。冷えたミネラルウォーターを手にもって、山科は仕事を頼むような気軽さで、園子に声をかけた。
園子は返事につまった。
先に進もう。
そう言われているのだろうか。
セックスへの嫌悪感が、胃の下あたりを持ち上げる。それでも園子は「はい」と頷いた。
山科がほっとしたような顔をする。
未来の分からない今、山科に身をゆだねてしまったら、まずいんじゃないだろうか。そう思う反面、どことなく不安げな山科を遠ざけることなどできないし、自分も……、そう自分も、今、彼と寄り添っていたいという気持ちになっている。
山科が自分を求めてくれるなら、側にいよう。
それでたとえ離ればなれになったとしても、仕方がない。
それが運命というものだ。