会社で恋しちゃダメですか?
園子は黙り込んだ。
膝の上にある山科の髪を、しばらく指ですく。
「先日の電話、なんだったんですか」
園子は訊ねた。
すると山科があきらめたように笑った。
「気づいてたんだ。君は劇的に鈍いのに、よく俺をわかってる」
山科は顔を上げて、園子をキッチンから抱えて下ろす。それから二人は窓際のソファへと移動した。腰を下ろすと、山科がふうと溜息をつく。
「懇意にしているヘアメイクと、連絡をとっていたんだ。竹永のクリームの試供品を配って、使用心地をリサーチしたいと言って。ゆくゆくはタレントにそれとなく勧めてもらえるよう、話をしてたんだ。感触は悪くなかった。商品はいいし、価格も手頃。大手の商品を使うことより、マイナーでも品質のいいものを知っているっていう、プロの自尊心みたいなものもくすぐっていたみたいだった」
山科は両手を膝の上において、背もたれに全身を預ける。緩んだネクタイに、開けたシャツ。疲れた顔をしていた。
「でもあるときから、約束をキャンセルされるようになった。連絡をとっていたアーティスト、全てにだ。おかしいと思ったから、さぐりを入れてみた。そうしたら……TSUBAKIから圧力をかけられていることがわかったんだ」
園子の頭に、社長の姿がよぎる。
「ヘアメイクにとって、TSUBAKIからにらまれることほど、怖いことはない。最大手だし、TSUBAKI経由で仕事が入ることも少なくないんだ。実際、俺が彼らと知り合ったのも、その流れでだ」
山科がコテンと頭を園子の肩にあずけた。
「気づかれたのなら、終わりだ。他に竹永の認知度をあげる方法は、思いつかない。いずれにせよ……どの方法をとったって、TSUBAKIに動かれる」