会社で恋しちゃダメですか?
三
その夜は、朝まで山科に寄りそった。ベッドではなく、ソファで。
山科が、全部のエネルギーを使って新しいプランを考えているのを真横で見ていると、本当に頭のいい人なんだと感じた。仕事の邪魔になるから帰ろうかとも考えたが、山科が離さなかった。園子は、山科の隣で話を聞きながら、相づちをうち、分からないところの説明を受けた。
「いけるかも」
明け方の四時頃。山科の瞳が輝く。
「池山さん、出社したらすぐに、このアンケートを実施できるよう、手配して。データも集めて」
「はい」
「プロジェクトチームには本当のことを話そう。彼らとは一心同体でやってきた。彼らをクビにはさせない」
朝の五時半。二人でカフェイン多めのコーヒーを飲んだ。
「わたし、一度家に戻ります。着替えて出社しますから」
園子がそう言うと、山科がこめかみにそっとキスをする。
「ありがとう。君がいなかったら、何もできなかった」
「そんな、わたし何もしてません」
園子は首を振る。
「俺は池山さんなしじゃ、生きていけないよ」
甘えたような声で言うので、「おおげさな」と園子は笑った。
山科の見つめる先が変わった。そんな気がする。
最初は、偉大な父親しか視界に入っていなかったけれど、今は竹永の社員と同じ方向を向いている。
竹永で働く社員を守りたい。
その一心で動いている。
熱意に溢れるその瞳は、経営者である父親と、そっくりだった。