会社で恋しちゃダメですか?
しょぼしょぼする目をこすりながら、それでも前向きな気持ちで出社した。山科はすでに出ていて、デスクでコンピュータの前に座っている。園子を見つけると「池山さん」と声をかける。
「はいっ」
園子は鞄を投げるようにデスクに置くと、山科のところへと駆け寄った。
「プロジェクトチーム集めてくれる? 今日の早めの時間で」
「はい」
「それから、明日、TSUBAKIの本社へ行くから、同行してくれ」
園子はびっくりする。「わたしがですか?」思わず大きく訊ね返した。
「そう」
「わたしじゃ、何のお役にも立てないんじゃないかと思いますが」
「いてくれるだけでいい」
山科が微笑む。
「君は俺のエネルギーの源だから」
彼の側にいたい。
だけど。
園子の胸が痛む。
別れの時が近づいているのかもしれない。
TSUBAKIの社長と対峙したら、園子は答えを出すことになるだろう。
「ビジネスだよ、お嬢さん。わたしが望むものを、君は差し出すことができるか?」
正直、なんの答えも出ていなかった。社長の望むものが何かわからなかったし、結局のところ身を引くしかないようにも思う。「考えて」と言われたが、特別に頭もよくない園子には、さっぱり見当がつかない。
山科の前で答えを迫られたら、身を引けと言われたら、園子はどうしたらいいだろう。
「ご同行します」
園子は答えた。