会社で恋しちゃダメですか?
そこに部屋の外から、ざわざわという気配が聞こえて来た。
「お待ちください」
紀子が慌てた様子で言っている。
「どうしても今、話したいの」
あおいの声がした。
山科が驚いたような顔をする。席を立って、部屋の扉を開けた。
「達也」
あおいが山科の姿を認めて、今にも泣きそうな声になる。
「なんで来たんだ」
山科が困ったような顔をする。
「連絡がつかないから」
「仕方ないだろう。あおいが納得しないから」
「納得なんて、できる訳ないものっ」
あおいが叫ぶ。
オフィスがざわつく。紀子は興味しんしんという顔で、あおいを見つめている。
「あおいさん、こちらへ」
すでに騒ぎのようになってるオフィスを気遣って、園子があおいを部長の部屋へ促そうとした。
「さわらないで」
取り乱したあおいが、園子の手を払う。山科が「おい」と、園子とあおいの間に入った。
「近いうちに、彼女とも終わりになるわよ」
あおいが目を真っ赤にして、強い声で言う。整えられた美しい手が、グリーンのワンピースの裾を握りしめた。
「あなたのお父さん、『会って確かめてみる』って、この間言ってたから」
あおいの言葉に、山科の顔から表情が失われる。
「彼女のこと、知らせたのか?」
あおいが達也を睨みつける。
「知らせたんだな」
「そうよ。コマーシャルにも起用するほどのモデルになったわたしに対して『君は、どんなに有名になっても、達也に釣り合う女性にはなれないよ』って……」
あおいが顔を歪める。「あの馬鹿社長は、そうやってわたしをまた見下したのよ!」